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KUSHIRO

極寒の釧路は秘密のワンダーランド!知られざる酒パラダイスをめぐる(前編・牡蠣三昧編)

2019.03.08

  • 江澤 香織

寒くて死にそう、などとそう軽々しく言ってはいけません。本当に死ぬかも、と冬の釧路へ来て何度思ったことか(寒すぎてスマートフォンがブラックアウトします)。ここは氷点下がデフォルトの世界。毎日、日常が氷点下という真冬の釧路は、果たして一体どんなところなのか?!ビクビクしながら向かった旅先では想像を超えた面白楽しいあれこれに、たくさん遭遇してきました!

釧路を200%満喫したいなら、厚岸へ行こう!

羽田から飛行機に乗り、釧路タンチョウ空港に到着したら、バスに乗ってJR釧路駅へ。今回の旅をご一緒してくれる案内人は、釧路を盛り上げる地元メディア「クスろ」を運営する名塚ちひろさんと、釧路好きで何度も来ているという食いしん坊ミュージシャンのDJ SASAさん。ゆかいな仲間たちと駅で一同集合となりました。

JR釧路駅。駅舎は昭和36(1961)年の建物。残したい昭和の風景100選に入れたい。

JR釧路駅はレトロ感むんむん。今時めったにお目にかかれない激シブな風貌の建物です。現存する数少ない民衆駅(当時の国鉄と地元が共同で建設した駅舎)の一つで、中に入ってみるとなぜか古切手の専門店があったり、お母さんの手作り感満載のおむすび屋さんがあったりして妙にグッとくる。小腹が空いたのでふと、おむすびの陳列を覗いてみると、鹿肉、ザンギ(唐揚げの北海道ローカル名称 詳細は後編参照)、甘納豆赤飯!という北海道でなければ決して食べる機会がなさそうなご当地おむすびを発見。移動車中のお供とすることに。特に心奪われてしまったのが甘納豆赤飯。豆の甘みとご飯の塩加減がなんとも絶妙でクセになるおいしさ。最初はややキワモノ目線で見ていたというのに、旅の仲間たちもみんな、いつしか奪い合うように食べ尽くしていました。本土ではあまり見かけない組み合わせですが、これは新しい発見です。

おむすび屋さん。奥に厨房があり、本当にお母さんたちが手作りしているそうです。

牡蠣の聖地で食べ比べ&バーベキュー三昧

私たちが最初に向かったのは、釧路から車で1時間くらいのところにある太平洋に面した港町、厚岸(あっけし)でした。そう、好きな人にはご存知の通り、牡蠣(かき)の名産地!そもそも厚岸という地名は、アイヌ語で「牡蠣がたくさんいる所」を意味する、という説もあるくらいです。「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」は厚岸湾を見渡す高台に建つ観光施設。その満足度は、牡蠣好きの聖地と呼ぶにふさわしいレベル。夏の観光シーズンは人気が高過ぎて大行列になるそうですが、冬ならそれほど混んでない!しかも真牡蠣は冬から早春にかけて特に美味しくなっていくのだそう!本当の牡蠣好きなら今こそ行くべきなのです。

「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」に到着。凍える寒さなのに横断幕で歓迎していただきました。押忍!

コンキリエの二階にある店「炭焼 炙屋」ではすぐ隣の市場で仕入れた新鮮な魚介を、水槽から好きなものを選び、セルフで炭火に炙っていただくことができます。屋内なので天候・季節に関係なく快適。真冬でもあったかい。そして海を見下ろす最高の眺め。全面オーシャンビュー!!

「炭焼 炙屋」の水槽前にて、牡蠣について、まずはお勉強。

生鮮部のスタッフさんに厚岸の牡蠣についてご説明いただきました。炙屋で扱っている牡蠣は主に3種類で「マルえもん」「カキえもん」「弁天かき」。全て真牡蠣です。日本海側でよく獲れる岩牡蠣と比べると小ぶりですが、身が締まっていて甘み旨みが濃いことが特徴。マルえもんは宮城生まれの厚岸育ち。宮城で生まれた稚貝を厚岸で4、5年かけて大きく育てています。全国的に流通しているのは、このマルえもんが多いそう。次にカキえもんは生まれも育ちも厚岸という純厚岸牡蠣。育て方に特徴があり、少し手間のかかるオーストラリアの「シングルシード」方式を採用しています。牡蠣といえば、ホタテの貝殻が付いたロープなどを海中に垂らし、幼生を付着させる「垂下式」という養殖方法が一般的ですが、シングルシード方式は、粉砕した小さな貝殻片に一つずつ幼生を付着させるため、貝殻の形に邪魔されず、ぷっくりと立体的で厚みのある牡蠣に育つそうです。最後に弁天かきは、マルえもんとカキえもんのいいとこ取りをした牡蠣で、昔、厚岸で獲れていた天然の牡蠣にできるだけ近いものを目指しているのだとか。縦に大きく育ち、身入りも良く食べ応えのある牡蠣です。まだ世の中にはほとんど流通していない、試験販売中の牡蠣とのことでしたが、食い入るようにふんふんと鼻息荒く話を聞いていた私たちに観念したのか、スタッフさんは水槽の下の方に隠し入れていた弁天かきの箱を引き上げて下さいました!パチパチ!!

かき、牡蠣、カキ!カゴいっぱいの牡蠣!!

厚岸の牡蠣がおいしい理由の一つには、牡蠣を育てている環境があります。厚岸湖は淡水と海水が入り混じる汽水湖。厚岸大橋から奥にあるのは湖で、手前に行くと太平洋へとつながる厚岸湾。この辺りは湿原が多く、雪解け水と一緒に餌であるプランクトンが一気に流れてきます。その栄養をたっぷり蓄えて育つのが厚岸の牡蠣。しかし湖だけで育てているとぬくぬくと食べすぎ?!状態になるため、漁師さんが時々外海に移動させ、冷たい水で身を引き締めるそうです。アメとムチ養殖法?!

そして、一年中おいしい生牡蠣が食べられることも、この地域の大きな特徴。厚岸は夏でも寒流の影響で海水温が低く、牡蠣の成熟をコントロールしやすいのだとか。また水揚げされた牡蠣は、紫外線滅菌海水で48時間蓄養し、清浄にしています。さらに定期的な食品検査も実施しているので安心。滅菌で身が痩せるのでは?といわれることもあるそうですが、スタッフさん曰く、たった2日ぐらいではそんなに変わりませんよ、とのこと。品質に関しては厚岸の牡蠣が日本一!と自信とプライドを見せてくれました。

さあ、いよいよ絶叫・悶絶タイム到来!いただきます!

説明いただいた3種類の牡蠣は、もちろん全部食べさせていただきました。まずは生で。比べてみると、やはりそれぞれ味が違う。どれもおいしいことに間違いないのですが、最初っから高いレベルで食べ比べしているので、自然と舌が肥えてしまいます。私が特に気に入ったのはカキえもん。一口食べると、ほわっ!と瞳孔が見開く。熟れたて南国フルーツか?と思うような、ふっくらみずみずしいフルーティー感、そしてミルキーなコクと爽やかな風味、複雑に多重な旨み。それらが一心同体でとめどなく押し寄せてくる!臭みはなく清らかで、その上品さ故、いけないものを食べてしまったような、ごめんなさいと謝りたくなるような背徳感と恍惚感。全国民からずーるーい!と非難を浴びまくりそうな末恐ろしい牡蠣でございました。さらにこの後濃厚で旨味たっぷりな浜中の馬糞ウニも食べてしまい、ますます平謝り。ちなみに生食後は、炭火で焼いた牡蠣やホタテも堪能し、もう贅沢しかしていません。ご一緒したSASAさんも冬の牡蠣は初めてとのことで、お互い黙々と目の前のご馳走に集中。みんなとなんの会話したのかも覚えてないほど夢中で食べ尽くしました。ちなみに焼くとまた違った香りと食感を楽しめるので、ぜひ両パターンお試しください。

  • 炭火焼も色々食べました。ホタテやしいたけもおいしかったです。
  • 全面オーシャンビューの特等席。夏場は常に待ち時間が出る人気ぶりだとか。

炭焼 炙屋
〒088-1119 北海道厚岸郡厚岸町住の江2丁目2 厚岸味覚ターミナル・コンキリエ2F
営業時間:
4月~10月 11:00~PM9:00 (L.O PM8:00)
11月~12月 11:00~PM7:00 (L.O PM6:00)
1月~3月 11:00~PM6:00 (L.O PM5:00)
月曜定休(7、8月 無休)
電話: 0153-52-4139

牡蠣に合わせたいのは、地元産のウイスキー

ここまでなんと、お酒を飲んでいません(炙屋では北海道の日本酒をはじめ、アルコールは種類豊富です)。なぜ我慢していたかというと、同じ階にある次の店「オイスターバール ピトレスク」へ行くため。このバールでは、ウイスキーの本場スコットランド・アイラ島の流儀にちなんで、生牡蠣にウイスキーを振りかけて食べることができるのです。そう、今まで黙っていましたが、厚岸ではウイスキーも造っているのです。冷涼で湿潤な気候、寒暖差があることなど、アイラ島と環境がよく似ており、ウイスキー醸造に適した土地なのだとか。「厚岸蒸溜所」は2013年より試験醸造を開始し、2018年にノンピートとピーテッドタイプの2種類をリリース。「ジム・マーレイ・ウイスキーバイブル2019」では、100点満点中88.5点という高得点を獲得し、高い評価を得ています。2019年3月には北海道産の木であるミズナラの樽で熟成されたものがリリース開始。いずれも少量生産なので一般には入手困難!でもここへ来れば飲める!地元の酒で地元の牡蠣を存分に堪能し、窓の外は厚岸湾を一望できる絶好の眺め。これ全部私のものよ、という変な勘違い。なんなのでしょう?贅沢過ぎるシチュエーション。ここは王様の城ですか?!今日はもう一日ずっとこの場所でチビチビ飲み食いしながらぼーっとしていたい…。

リリースされた第1弾(ノンピート)と第2弾(ピーテッド)でカキえもんを飲み比べ、食べ比べ。ピート香のある方は牡蠣にかけると燻製のようにも感じられ、旨みと香りのサラウンド効果を楽しめます。

コンキリエには、他にも飲食店やミニ水族館、そして一階には売店もあり、牡蠣商品が豊富。これでもかと牡蠣尽くし。牡蠣のソフトクリームも食べられます。厚岸産の牡蠣を使ったオイスターソースをお土産に買い、後ろ髪を引かれながら釧路市内へ戻ることにします。

コンキリエの皆さん、ありがとうございました。

オイスターバール ピトレスク
〒088-1119 北海道厚岸郡厚岸町住の江2丁目2 厚岸味覚ターミナル・コンキリエ2F
営業時間:
1〜3月 11:00~18:00 (L.O. 17:30)
4〜10月 11:00~20:00 (L.O. 19:30)
11〜12月 11:00~19:00 (L.O. 18:30)
月曜定休(7、8月 無休)
電話: 0153-52-4139

厚岸から釧路へ向かう海沿いの道路は、夕暮れ時が特に絶景。釧路は世界三大夕日と呼ばれるほど、夕日の美しさで有名です。しかし、この日は稀に見る大雪で(釧路は太平洋側なので、冬は基本的に晴れの方が多い)、ある意味レアな景色を眺めながらのドライブでした。釧路到着の頃には日も落ちて、いよいよ夜の街へと繰り出します。

この日の精一杯の夕日写真。ちらっと雲が割れた瞬間。悪天候の素人写真でもこれなので、天気が良かったらどれだけのことなのか!
江澤 香織

ライター。食、旅、クラフト等を中心に活動。酒蔵めぐりをメインとした「だめにんげん祭り」主宰。著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)等。

Instagram:caori_ez_japon

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