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KUSHIRO

極寒の釧路は秘密のワンダーランド!知られざる酒パラダイスをめぐる(後編・酒場徘徊編)

2019.03.22

  • 江澤 香織

酒呑みはなぜ、ハシゴをするのか。どうして一軒では済まないのでしょうか。心も頭も胃袋も(肝臓も)、もう相当幸せな気分になっているはずなのに、さらなる幸せを求めてふわふわ街を彷徨ってしまう。他にもまだいい酒場があるに違いないと思い込む根拠のない確信、それならとりあえずマーキングしておきたいという、動物的本能がもたらすナワバリ根性なのでしょうか?

釧路の街は「北酒場」という言葉がぴたりとハマる、旅情たっぷりのストリートでありました。前編でご一緒した、地元メディア「クスろ」の名塚ちひろさんと、釧路リピーターのミュージシャン・DJ SASAさんと共にいざ、夜の街へ繰り出します。日の落ちた釧路はまた一段と気温が下がり、寒さが身に沁みる。そのせいか、ポツリポツリと灯る明かりの向こう側が一層恋しくなるんですね。釧路の酒場は平日でも大雪の日でも結構賑わっていて、夜遅くまで開いているところが多い。特に釧路川に近い栄町エリアは、個性的で味わいのある小さな店が点々と建ち並んでいるので飽きません。ハシゴせざるを得ない魅惑にあふれています。

釧路名物が続々登場する炉端焼きの名店へ

旅情をそそる風景、味わい深い釧路の街角。

最初に向かったのは、居酒屋「炉ばた 万年青」。万年青と書いて、「おもと」と読みます。店の創業者が大好きだった植物の名前だそうです。ここは名塚さんからもイチ推しされた店でした。炉端焼き、という言葉を聞いてうっとりするあなたは飲兵衛さんに違いないと思いますが、いうまでもなく釧路名物の一つです。注文が入ったら、お客の目の前に起こした炭火で、好きな食材を焼いてもらえる(もしくは自分で焼く)料理のことをいいます。発祥は仙台ともいわれますが、海が近い釧路では焼きものに海産物が多く使われ、そのスタイルが人気となって全国に広まっていきました。そのため釧路には今も100軒以上の炉端焼きの店があるそうです。釧路で呑むならなんとしても炉端焼きは外せません。

  • この店構え。どう考えても素通りはできないでしょう。
  • 暖簾をくぐって中に入ると、目の前には年季の入ったコの字型テーブル。真ん中の焼き場で、魚介や肉が手際よく焼かれます。

万年青は昭和31(1956)年の創業。女将・高見要香さんのお母様が始めたお店です。最初は屋台でおでんを出していたそうで、昭和56(1981)年から、今の店舗になったとか。つい数年前までは、夕方5時からなんと朝7時まで営業していたそうです。最近は体力がねえ、とおっしゃってはおりましたが、そんな現在でも午前2時まで営業。すごいことです。「昔は炭鉱があって、そこで働く人がよく来ていたんです。今は観光客も多いねえ。この時期だと丹頂鶴を見に来た人やワカサギ釣りの人、あと網走まで流氷を見に行く人もいましたよ」と女将。

  • まずはビールで乾杯!
  • カウンターの奥には小上がりも。

クスろのお酒担当片野さんや、地元でお土産店を営む社長なども集まり、ワラワラと呑み仲間が増えていきました。地域の人と交流を深めることも、旅の楽しみの一つです。

これは初めて!八角という魚です。

出て来た一品は皿からはみ出るほどのボリューム!魚を開いた表面に味噌が塗られ、ネギをどっさり。こちらでは軍艦焼きともいうらしい。八角は北海道以外ではあまり出回らない、珍しい魚です。見た目は不思議なビジュアルで怪獣みたいなんですが、実はなかなか貴重な高級魚。淡白な白身魚で、ふっくらジューシーに脂がのっていて美味。冬が旬だそうです。ここでSASAさんより、イカゴロ焼きもおいしいらしいよ、との情報。

  • イカゴロ焼き。女将が持って来てくれました。
  • 改めて寄りで撮影。

なんでしょうこれ、濃厚な旨みがすごいです。イカの本当の実力を見せ付けられたような、パーフェクトなアテです。

たまらず日本酒へ突入!!

「北の勝」は根室のお酒です。1月中旬に数量限定で販売されるという幻の「搾りたて」に運良くあり付けました!発売日には道民が酒屋に行列を作るという、大変人気のお酒だそうです。すっきりとフルーティーでするするーっといけてしまう。

ここで女将のおすすめ「阿寒ポーク」を注文!

阿寒ポークとは、釧路湿原に隣接した農場で育ったブランド豚です。自家製の生姜醤油に漬け込んだ肉を炭火でじゅうじゅうと。香ばしい匂いがあたり一面に漂い、みんなの熱い視線が焼き場に集中。

はあぁ〜、おいし〜い!!

ふっくら柔らかい食感とジューシーな肉の旨み。わっと箸が皿に群がり、瞬殺で肉が消えました。イリュージョン!SASAさんもこれはうまいと驚いています。釧路って、海産物だけじゃなかった。

  • ここでトドメの卵焼き。
  • そしてフライパンがすごかった。

万年青の人気裏メニュー。見た目は普通の卵焼きなんですが、甘辛具合が絶妙の味加減で、酒に合ってうまいのです。女将に聞くと、材料は秘密!とのこと。

「これじゃないとダメなのよ」と見せてもらった卵焼き用のフライパンに驚愕。50年以上使っているそうですが、湾曲具合が尋常じゃありません。超能力でもこんなにぐにゃりとは曲がりません。おいしさの秘密はこれだったのか!このフライパンを見るだけでも釧路へ来た甲斐がありました。

あれもこれもとまだまだ注文したいところですが、そろそろ2軒目へ移動です。ごちそうさまでした!(ここへ来る前に「釧路フィッシャーマンズワーフMOO」で「さんまんま」をつまんだので本当は3軒目です)

炉ばた 万年青 (おもと)

〒085-0013 北海道釧路市栄町4-2
営業時間:17:00~翌5:00 (月曜定休)
電話: 0154-24-4616
カード不可

2軒、3軒とハシゴするのが楽しい釧路の夜

次に向かったのはこちら「鳥松」です。万年青から徒歩1分圏内。

釧路は「ザンギ発祥の地」ともいわれています。えっと、ザンギって何ですか??はい、大らかな解釈では、ザンギとは唐揚げの北海道ローカル名称。と言っても、鶏肉に下味を付けてから揚げるのがザンギだとか、味が濃いのがザンギだとか、唐揚げもザンギも一緒だとか、ザンギはザンギだとか、道民によって解釈は色々あり、明確な答えはないようです。いずれにしてもザンギは道産子のソウルフード。鳥松はその元祖といわれています。

魅惑の短冊メニュー!ザンギの名前の由来は、中国語で鳥の唐揚げを意味する炸鶏(ザーギー)に幸運の運(ン)を入れて「ザンギ」という説も?!

鳥松は昭和35(1960)年にオープン。開店間もない頃、鶏一羽を丸ごと仕入れてぶつ切りにし、唐揚げを作って提供したことが始まりだそうです。だからメニューの元祖「ザンギ」は骨つきで、鶏の様々な部位が入っています。現在のメニューには骨なしもあり、もも肉を使っていました。北海道産の鶏肉を、生姜、ニンニク、醤油などで下味をしっかり付けてから揚げるとのこと。揚げたてはサクサクで、中からジューシーな肉汁が!もうこれは唐揚げ罪という犯罪です。ビール泥棒〜。そのままでも十分おいしいのですが、鳥松オリジナル秘伝のタレを付けて食べると、また深みが増してやめられなくなるー。

骨付きと骨なしの両方を注文。広告の紙で折られた骨入れにキュン。

お土産として持ち帰りすることもできるそうで、釧路っ子はここで買って家で食べることも多いとか。Uの字型のカウンターは常時満席で賑やか。出張で釧路に来たという韓国からのお客さんもおりました。ギュギュッと詰まった空間なので、知らない人同士でも思いがけず会話が弾みそうです。楽しい!

そして3軒目(正式には4軒目)。鳥松から徒歩1分。

さらに訪ねたのは1966(昭和41)年創業の「つぶ焼 かど屋」。名塚さん曰く、釧路っ子は呑んだシメにつぶ焼を食べることが多いそうで、店内はお客さんでいっぱい。夜遅いほど混んでいるらしい。貝と醤油の焼けるなんとも香ばしい匂いが店内に充満しています。すでにお腹いっぱい食べているというのに、胃袋がまたキューキュー言い出しました。

網の上にキリッときれいに陳列されたつぶ貝。丁寧な仕事ぶりが伺えます。

大ぶりの青つぶを使い、前日の朝から1日スタッフが焼き、一晩寝かせて次の日もう一度焼くという、大変手間のかかる作り方です。創業時から継ぎ足している昆布ベースの秘伝のタレで味付けして、熱々が提供されます。はふはふしながら、まずは貝殻の中になみなみと満たされた出汁を飲み干します。もう、こんなの絶対おいしいに決まってる!そして添えられた竹串でプリプリの身をクルッと引き出して、一口でぱくっ。弾力ある食感と貝のほとばしる旨み。こんな贅沢なものを気軽に食べている釧路っ子たちがただひたすら羨ましい。

細かい話は割愛しますが、この後店のもう一つの名物である黒いラーメンもいただき、さらに味のあるレトロな喫茶店・仏蘭西茶館に行ってパフェを食べ(午前0時までやっているので夜お茶にも便利!)、SASAさんは地元の友人と落ち合ってもう一軒、と夜の闇に消えて行きました。釧路の代表的うまいもんを片っ端から食べ尽くした大満足の酒ホッピング!胃袋が足りなさ過ぎました。

鳥松
〒085-0013 北海道釧路市栄町3-1
営業時間:17:00~翌0:30 (日曜定休)
電話: 0154-22-9761
予約・カード不可

氷点下の毎日でも存分に楽しい釧路

次の日の朝の気温は軽くマイナス13℃。ここまでくると寒さはアトラクションです。前日最後まで飲んでいたSASAさんは朝も早くから散歩していたそうで、目の覚めるような「蓮の葉氷」の写真を見せてくれました。

SASAさんが早朝に撮影した、幣舞橋から見た釧路川。

蓮の葉氷とは、流氷の子どもみたいなもので、厳冬期でなければ見ることができません。蓮の葉のように縁が少しめくれて表面が平たい形をした氷が、川一面を覆う幻想的な風景です。寒いというより痛い、という程の外気温でしたが、その体験も含めて一見の価値あり!またこの温度だとスマートフォンは落ちやすいので撮影は迅速に!

朝食は和商市場で勝手丼(ご飯の上に自分が食べたい海鮮を好きなだけ選んで乗せられるシステム)&ビール。その後お土産を買いに最後の酒スポットへ。街から少し離れた住宅街にある「ひこやちや」は、自然派ワインを中心に揃えたワインショップ。ワインが大好きという優しい物腰で知識豊富な店主が、ワイン選びの相談に乗ってくれます。少数ながらセレクトされた北海道ワインも扱っていました!近年人気が高まっている日本ワインですが、その中でも北海道はユニークな小規模ワイナリーが年々増えており、注目を集めています。

小さな店ですが、店主の熱意が感じられるセレクト。

リーズナブルなデイリーワインから、ちょっとレアなものまで。話がはずむと奥の部屋から珍しいワインを出してくれるかも?!釧路にはワイナリーはないのですが、余市、上富良野で造られたワインを1本ずつGETしました。配送もしてくれるのが嬉しい。後日届いたワインには丁寧なお手紙が添えてあり、買おうかと迷っていたワインの東京での販売先を親切に調べて下さっていました。

petit cellier ひこやちや
〒085-0814 北海道釧路市緑ケ丘5-26-24
営業時間:11:00-19:00  (火曜、第1・3月曜 定休)
電話: 0154-65-1617

ランチはもりそばとかしわぬき(親鳥の出汁がきいたスープ)、そば寿司。

釧路最後のランチは「竹老園 東家総本店」へ。釧路というとつい海産物へ行きがちですが、実はいい蕎麦屋さんも多いそう。こちらは明治7(1874)年創業の老舗です。蕎麦がやや緑がかっていることが特徴的ですが、これを最初に始めたのは「かんだやぶそば」。新蕎麦じゃない時期にも、お客様に新蕎麦の気分を味わっていただきたいという思いから始まり、全国に広がって行ったのだとか。竹老園は代々の作り方を忠実に受け継ぎ、伝統を守っています。蕎麦つゆにも細やかに手をかけており、蕎麦の風味を引き立て、主張し過ぎないよう、バランスの良い味わいに気を配っているそうです。

そして一緒に頼みたいのがそば寿司。昭和25年頃、先々代によって試行錯誤の上、時間をかけて開発されたそう。特製の甘酢に浸した蕎麦を山葵代わりのおろし生姜とともに海苔で巻いています。酸味と甘みが優しく上品で、酒のつまみにもぴったり。持ち帰りもできますが、やはり出来立てを食べてもらいたいとのことでした。建物の一部は昭和2年頃に建てられたもので、古き良き味わいがあります。

竹老園 東家総本店
〒085-0814 北海道釧路市柏木町3-19
営業時間:11:00~18:00 座敷 11:00~16:00 (L.O.15:30) (火曜定休)
電話: 0154-41-6291
http://chikurouen.com/

釧路空港へ向かう途中、ついに見ることができた夕日。言葉を失うほどの絶景でした。

あっという間だった釧路旅。思い出すたびに、次はあそこも行って、あれも食べてと、ますます行きたい気持ちが盛り上がるばかりです。現地に心強い友人もでき、再訪する楽しみができました。LOVE釧路!

オマケ 釧路で出会った面白楽しい珍風景

  • 道路標識に忽然と、まりも。阿寒湖が近いため、無言のまりもアピールに多々遭遇します。
  • タクシーのランプももちろん、まりも。ひらがなで明記されているところが愛らしい。
  • 突如現る奇抜な建物。釧路出身の建築家、毛綱毅曠(もづなきこう)の設計。市内あちこちにあります。
  • 市場に咲く、ハンドクラフト風の可憐なバラ。実は昆布!店主の奥様の手作りだそうです。
  • アメリカンドッグにケチャップではなく砂糖!が釧路っ子の常識。意外なおいしさ。
  • 静かに佇む、カニのUFOキャッチャー。挟むか挟まれるかの戦い。
江澤 香織

ライター。食、旅、クラフト等を中心に活動。酒蔵めぐりをメインとした「だめにんげん祭り」主宰。著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)等。

Instagram:caori_ez_japon

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