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ASAHIKAWA

ホテル業を超えて旅の体験をデザインするOMO7 旭川のすべて

2019.04.12

  • 林 唯哲

今回の北海道旭川行きの宿泊先は、OMO7 旭川であった。出発前に下調べをしなかったので、星野リゾートのブランドであることぐらいしか知らなかった。
最初から知り過ぎないようにしてこそ、旅の全体がより一層印象深くなるものである。遠くの方にレンガ造りの古風な建築の外壁が見えた時、少し意外に思った。星野リゾートのイメージと違っていたからである。どっしりとした落ち着いた雰囲気があった。最高の楽しみ、その全てがドアを開けた瞬間から始まろうとしていた。
OMO7 旭川は昨年リニューアルが済んだばかりで、その前身は旭川グランドホテルである。それは、旭川の地で長い歴史を持ち、地元の人々に愛され続けてきた大型ホテルであった。
「誰もが知っている、心の拠りどころのような場所でした」ホテルのフロントスタッフがそう教えてくれた。そして星野リゾートに引き継がれた後は、OMOブランドとして誕生することになった。
OMOとは、日本語の「面白い」「おもてなし」などの「おも」が付く言葉をとったものであり、このブランドはまさに、観光のもてなしをもっと生き生きとした、楽しいサービスにしたいという星野リゾートの想いを体現するものである。

旭川観光のベストチョイスはご近所ガイド OMOレンジャー

ホテルのロビーラウンジ全体に「木」が多く用いられ、ドアを開けるとまず目に入る大きなインスタレーションやパブリックスペースに配された家具は、いずれも魅力的で精緻なディテールから成っている。

前身のクラシックな趣から、より若者向けでモダンな複合的空間に生まれ変わった。しかし木であれメタルであれ、いずれも細部の作りがきちんとしているため、若さの中にも品格を失っていない。
ロビーラウンジの巧みな構想を更に知るうちにようやく気付いたのだが、文字通りここはクリエイティブな遊び心に満ちたパブリックスペースであった!

ロビーラウンジ空間内に置かれた木製家具はどれもデザインが異なっている。旭川の木工技術は日本国内でも有名であり、百年続く伝統の技にデザインを融合させることで、より魅力的な形で観光客に旭川の技術を披露しているのである。
ホテルでは、椅子やテーブルだけでなく照明器具に至るまで木製家具製作の過程で出た廃材を再利用しており、独創性あふれるアイデアが、ロビーラウンジの隅々に数多く散りばめられているのだ。

その中でもひときわ目を引く壁面には、旭川のマップのようなものに紙片や写真がたくさん貼り付けてある「ご近所マップ」がある他にも街中を案内をしてくれるご近所ガイド OMOレンジャーというOMO7 旭川のかなり特別なサービスあった。

レンジャー(Ranger)とは、皆さんよくご存じの「戦隊モノ」に出てくるような、色とりどりのコスチュームに身を包んだ戦士である。「戦隊モノ」同様、彼らにも5種類の色がある。OMOレンジャーは、地元民として観光客をディープな旭川探訪へと案内し、興味をそそるような小さな店を訪れたり、ご当地グルメを味わったり、旭川の歴史などに触れたりして、旭川ならではの珍しい人やコトを発見してもらう。
他の選択肢があったとしても、これ以上楽しい体験があるだろうか?お決まりの観光ルートを辿るのは嫌だけれども、限られた時間内でどうしたら一番楽しい体験ができるのかも分からない、そこでOMOレンジャーが結成された。
ふとフロントに目をやると、あれ、確かあの人は今しがた私に会釈をしたホテルスタッフのはず…。だが今、緑色のコートとニット帽、手袋を身にまとい、グリーンレンジャーに変身していた!なんと、OMOレンジャーたちは全員がホテルのスタッフであったのだ。彼らは旭川在住であり旭川のために力になりたいという気持ちを持っている。それぞれのOMOレンジャーの色によって担当するルートやテーマが異なっており、ルートや内容もマップ上で絶えず更新されることになっている。
実は、これからOMOレンジャーの「ご近所ガイド」に出かけるのだ。

自己実現を追求するアートストア

OMOレンジャーに連れて行ってもらった最初のお店は、ハンドメイド商品を取り扱うヤマトストアだった。ここはセレクトショップで、足を踏み入れれば素敵な商品がずらりと並んでいる。この店はとても印象的だった。やはり旭川といえば大自然のイメージが強いのだが、こんなオリジナリティにあふれたデザインの店があるとは思いもよらなかった。

それらはすべて、この店で働くアッコモンさんとオーナーの旦那さんのセンスで選ばれた。ハンドメイド商品を扱うセレクトショップは、大都市ならばどこにでもあるが、セレクトショップの良し悪しは、商品を選ぶセンスによって決まる。
アッコモンさんのセンスは抜群だ!私はこれまで装飾品にはあまり魅力を感じない合理主義の男だったが、この店には乙女心が爆発していた!私は本当に初めて店に入った瞬間に「買いたい」と思ってしまったのだ。それくらいものすごくセンスが良いのだ!
私は何よりセンスの良い人には太刀打ちできない。これは、私が人や物事の魅力を判断するときのルールだ。この店のセンスは、ありえないほど高い。もともとふらっと立ち寄るつもりで、最初の店で素晴らしいセンスを持つ作家の作品をいくつも購入してしまった。
何気なく見ていたら、壁に掛けられた絵に引きつけられた。細部まで丁寧に、色とりどりに描かれた素晴らしいイラストで、非常にぬくもりが感じられ、ものすごいエネルギーを感じたからだ。

しかし何より驚嘆すべきは、これはアーティストがもともと平面に描いたイラストを一つひとつ立体化したという点だ。見たこともない斬新な手法。イラストに驚嘆するだけでなく、創作者のテクニックや根気に大変驚かされた。強い忍耐力を持っていなければ、こんな作品はとても完成させられない。ものすごい創意工夫がこらされている。聞いてみると、それはアッコモンさんの作品だという。彼女はお店のスタッフでありながら、非常に素晴らしいアーティストでもあるのだ。
旭川に移住したキッカケをアッコモンさんは、こう語った。
「今の旦那さんとは、東京のアートイベントで出会いました。そこで彼のお店『ヤマトストア』のアーティストの一人として作品を置いてもらうようになって、一緒に旭山動物園のTシャツを作ることになり、そこから縁あって旭川に嫁いできました」
私が商品を購入したのを見て、自分のイラストのカードもくれたのだ。まさに彼女は尊敬すべきアーティストだ。

 

生活からクリエイティブを実践する工房、ミチヒト

ヤマトストアを後にすると、大きなボタン雪が降り出した。雪にいたずらされて全身が紙吹雪まみれのようになりながらも、ヤマトストアで素晴らしい創造力に触れたおかげで、期待に胸をふくらませ、歩みをゆるめることなく次の行き先へと向かった。次の目的地である、ミチヒトの前に到着した。
外からは店舗であることがわからない。OMOレンジャーが案内してくれなければ、きっと見つからないだろう。
ドアを開けると、店主である見上さんが出迎えてくれた。店内に入ってからも、何の店なのか想像もつかなかい。店内には、コンロやランプ、アウトドア用調理器具やテントといったキャンプ用品がたくさん並び、壁一面にはバッグがつり下げられていた。

実はそこは、見上さんの工房だった。壁に下がっているさまざまなキャンバス製トートバッグは、すべて彼の手作りだ。
しかしこの後、普通のバッグかと思っていたが、次から次へと驚くべきことが明らかになる。見ていくと、複雑な機能を備えたリュックサックなどの商品を見つけた。手に取ってみるとこれはびっくり!軽すぎる上に、外側の機能性、内側の構造、バッグのスタイル、すべてにおいて非常にプロフェッショナルなのだ。

登山ブランドの商品のような精巧な商品を見上さんたった一人で作っているという。
実は見上さんは、設計士であるお父様と昔、山登りやキャンプをしていたそう。そこで登山用で欲しいバックがなかったため、自分で作ってみようと思い4年前から独学で縫製を学び始めた。ミシン1台とハサミからスタートし、自分で製品を分解して構造を研究し、さらに市販品の問題点を克服する構造を設計した。やはり信じられないのだが、彼の作った商品は明らかにバッグ専門のデザインチームの製品のように見える。それだけでなく、穏やかそうに見える見上さんにも、非常にユーモラスな一面があった。
店内にとても長いバッグがあったので、何に使えるのか聞いてみた。すると彼は、スーパーマーケットでネギやゴボウを買うときに、それらを入れるバッグがないことに気づいたという。そこでバッグの形 細長く、ネギやゴボウを入れられるようにしただけでなく、キャンディー専用のポケットなどたくさんついている。
さらにかわいらしい帽子が上下に付いていて、ネギやゴボウを完全に保護してくれるのだ。見上さんによれば、おばあちゃんが道ばたで子どもに出会うとキャンディーをあげるためポケットを作ったのだという(笑)。
東京のように必要性や効率性を考えると、このバックは売れないかもしれない。しかし旭川の人はとにかく「おもしろい」ことが好き。そんな自分の「遊び心」を形にしているのだ!

 

歴史を引き継ぎ新しくクリエイティブするカフェ

続いて案内されたのは福吉カフェ。築100年近い木造の古民家だった。昔は製粉所だった建物を、現在の店主が趣味の仲間に呼びかけて、トキワ焼きや福吉ラテを提供する小さなカフェにリノベーション計画を立てた。

「トキワ焼き」が入っているショーケースを見ると、すぐに小豆の味を連想した。彼らの小豆の調理法は通常と異なり、小豆の皮があまり口に残らないので、口当たりがよりなめらかになる。福吉ラテは牛乳・抹茶・小豆などさまざまな材料が使われていて、きれいな層になっていて非常にスペシャル。飲んでみると層ごとにそれぞれの味が順に楽しめて、おいしいうえに見た目も美しい。
店は全体的に昔の木造民家の構造がほぼそのまま残されており、一部の柱には昔のタイルも残っている。昔の面影をちょうどよく残したインテリアで、当時の製粉所の雰囲気が偲ばれる。
おお、差し込んでくる日の光が実に美しい!午後日向になる方向には温かな日差しが差し込み、味のある木造建築を金色に照らし出し、氷点下の旭川を至福のひとときで満たす。
どうりで平日の午後にも、客足が絶えないわけである。

 

人と街をつなぐホテル

OMOレンジャーの「ご近所ガイド」を体験した後、独特の古典的な優雅さと床から天井まで届く窓が飾られ、旭川の街を見下ろすことができるOMO7 旭川の最上階で私はOMOレンジャー、宿泊ユニットディレクターの姫野氏と話すことができた。

「私たちの目標は旅をつくることです。最も美しい旅行の思い出は、地域や人とのつながり、食と文化的つながりを残すこと。ここに来た人々に『ここに来てよかった、また来たい』と感じて欲しいです」

少し考えてみると、旅行の印象は最終的に人と関連している。旅が楽しいかどうか、食が美味しいかどうか、すべての思い出は人々のつながりから来ているのだ。
私達が旭川の魅力を伝え行動していくことで、少しでも町に貢献できれば、とても嬉しいです」OMOレンジャーは言った。
さらに宿泊ユニットディレクター姫野氏は「私たちにできることは、すべての宿泊客満足して頂くために旭川という街を好きになるきっかけづくりをしています。ホテルはもはや宿泊施設ではなく、町と人をつなぐ重要な役者なのです」

私は「旭川の未来」について、また、旭川がどんな新しい可能性を持つことができるか飛躍的に考えてしまっていた。しかし彼らが考える「旭川の未来」は一歩一歩確実に、次のステップを踏んでいる。

私は東京の雰囲気を持って、ここに来た。それが旭川の未来に触れることで「生活」への感覚をもたらした。

「常に急ぐことは絶対的なものではないこと、そしてライフスタイルには色々な解決策がある」と。

OMOレンジャーは私の心に大切な思い出を残してくれた。そしてOMOレンジャーを通して、私は新しい視点から旭川を捉え直し「生活」とはなにか?再び考えさせられた。
そしてホテル業界は、宿泊施設を提供するだけでなく、地域と統合し地域の価値も創造する。現在のOMO7 旭川は観光産業というよりは、文化産業と言った方がいい。
それもまた私にホテル産業に対する新しい考え方を与えてくれた。

Photo by 寺島博美 / コトハ写 (取材写真)
林 唯哲

BXG株式会社アートディレクター

1987年台湾生まれ。2014年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。同年GK Dynamicsに入社。2016年BXG株式会社を設立し、NIBUNNOを立ち上げた。ウェブメディア「選選研」で、日本と台湾のクリエイティブ分野の交流やプロジェクト活動を行うほか、台湾のメディアにデザインジャーナリストとして寄稿を行う。

HP https://www.sselectlab.com/
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