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テクノロジーとポップカルチャーで、地域の価値をデザインする

2019.04.01

  • 服部 亮太

  • 静電場 朔(セイデンバ・サク)

  • 厳 研(ゲン・ケン)

北海道というこのエリアが持つイメージといえば、映画やテレビの影響からか大自然と関連するものが多いはずだ。そんな北海道の札幌で、実はポップミュージック・カルチャーが大きな盛り上がりを見せていることを知る人はほとんどいないだろう。

音楽を楽しめる場所やイベントがたくさんあるだけでなく、今や世界に多くのファンをもつバーチャル・シンガー初音ミクも、実はここ札幌の会社が生み出した。

 

今回、日本でアートや音楽活動を行っている北京出身の若手アーティスト静電場朔(せいでんば・さく)が、“音の商社”としてスタートし、音声合成ソフトウェア「初音ミク」をはじめクリエイター向けの様々な製品・サービスやローカルプロジェクトを企画・開発しているクリプトン・フューチャー・メディア株式会社 ローカルチームマネージャーの、服部亮太氏に話を聞いた。

音楽の聖地、札幌

静電場:今回、実は初めて札幌を訪れました。伺いたいことは色々あるのですが、まずは札幌でサブカルチャーやエンターテインメントを楽しめる、おすすめの場所をお聞きしてもいいですか?

服部:北海道といえば自然や食文化、アウトドアスポーツの印象が強いかもしれませんが、実は札幌は、様々なポップカルチャーもたくさん生まれています。

札幌の中心部を東西約1kmにわたって約200店が軒を連ねる、北海道でも古くからある「狸小路商店街」というアーケード商店街があるのですが、実はここには音楽シーンも潜んでいるんですよ。例えば、ライブハウスのSound Lab moleさんでは「モグモール」という秋葉原MOGRAとコラボされているイベントが定期的に開催されていて、トレンドに敏感な若者がよく遊びに来ていますよ。

静電場ちょっと調べてみたんですが、ビジュアル系のバンドのライブとかもあるんですね。

服部いろんなライブハウスで行われていますよ。札幌はもともと、音楽シーンが充実している街で、サカナクションさんやeastern youthさんも札幌でバンドを結成しているんですよ。THA BLUE HERBさんは今でも札幌が本拠地ですし、ポップ・ミュージックやバンドサウンドをはじめ、ハウスやテクノといったクラブカルチャーシーンなど、ジャンルも様々です。

静電場:中国のWeibo(微博・ウェイボー)にも札幌に関する情報がたくさんありますが、多くは観光地やジンギスカンなどのことで、音楽に関する情報はごくわずかだったので、こんなにたくさんあるとは驚きました。東京で音楽シーンの拠点といえば渋谷や下北沢などがありますが、札幌で同じような場所といえば、やはり狸小路周辺なのでしょうか。

服部:そうですね。札幌中心部は実はとても狭く、密度がとても高いです。大通から狸小路、すすきのといった大体1~2平方キロメートルのエリアに、たくさんのライブハウスが密集していて、音楽に関するものがその一帯に集まっています。路地を散策すると楽しいですよ。

ライブも楽曲も、ファンとユーザーからつくられる

静電場実は、私は学生時代に初音ミクや彼女を代表とするバーチャル・シンガーのキャラクターたち、それにクリエイターの方々によるシリーズ作品から、音楽に関するインスピレーションをたくさんもらいました。

初音ミクというキャラクターがだんだん成長して、海外に進出し、全世界でライブを開くようになるのをずっと見守ってきたのですが、初音ミクの世界ツアーはいつ頃から始まったのですか?

服部:2011年の「MIKUNOPOLIS in LOS ANGELES」が初音ミクにとっての海外初ライブでしたが、「世界ツアー」である「HATSUNE MIKU EXPO」は、2014年5月にインドネシアのジャカルタで開催したのが始まりです。

2018年には「HATSUNE MIKU EXPO 2018 USA & Mexico」を北米で開催し、計7都市の巡演を経て「HATSUNE MIKU with YOU 2018」を中国の北京・成都・上海で開催しました。そして2018年末には「HATSUNE MIKU EXPO 2018 EUROPE」で仏パリ、独ケルン、英ロンドンに行きました。

今後の予定だと、2019年の5月に台湾、7月に香港で開催します。ちょうど今年5月に海外ツアーをはじめて5周年を迎え、海外へ進出してからはおよそ8年経ったことになります。

静電場:初音ミクのライブツアーのスタート地点は、なぜジャカルタになったんですか?

服部:それまでにもたくさんのイベント企画がありましたが、世界ツアーを開催するのであれば、最初にファンの意見を伺おうと思いました。

「初音ミクがライブを開くとしたら、どこがいいと思いますか?」とこちらから呼びかけたところ、一番多くの声が寄せられたのがインドネシアだったんです。そんな背景から、初音ミクの世界ツアーはインドネシアのジャカルタから始まったんですよ。

静電場:初音ミクのライブは、歌手はバーチャル、バンドは本物のミュージシャンで構成され、「こうであってほしい」と思う理想の臨場感あるライブでファンとしてとても楽しいです。しかもクオリティがどんどん進化して、完成度が高まっている印象です。ライブの曲目の選定はどうされているんですか?

服部:基本的に音楽ソフトウェアである「初音ミク」などのバーチャル・シンガーのユーザーの方々が作った楽曲から選定されています。ライブの度に楽曲コンテストを行っておりまして、そこにも新しい作品がたくさん集まります。もちろん、以前からの定番作品もありますし。毎回、何かしら変化がありますね。

静電場:会場選定といい曲目といい、ファンと一体感のあるプロセスにクリプトン社とファンの距離の近さを感じます。なにより、自分が作った曲がライブのステージでお披露目されるなんて、本当にワクワクしますね。そういえば、各国でライブをされていますが楽曲の言語はどうされているんですか?

服部:英語や中国語で歌うソフトウェアの「初音ミク」もありますが、今でも海外公演では日本語の歌がメインだったりします。日本製のゲームやアニメが多く流通しているので、皆さん日本語のオリジナル版でご覧になっているようなんです。だから日本語オリジナル版の楽曲をそのまま歌った方が違和感がないのか、ファンの皆さんも喜んでくれます。

静電場:おもしろいですね。一方で、ライブにおける国ごとの観客の反応はいかがですか?

服部:私は直接会場に行けてないので、海外担当に聞いたのですが、会場の皆さんがコールに参加することは、どの国でもほぼ同じなようです。

強いて言えば、サイリウムの振り方に違いがあると言ってました。欧米のファンは一斉に合わせて振ることはほとんどなく、基本的に個々に気持ちのよいやり方で振っていたようです。なかでもメキシコは一番リアクションが大きかったと。アジアのファンは基本的に動きが揃っているみたいですね。

静電場:日本のファンの多くは、実際に初音ミクを使って音楽を作っている人ですよね。中国も同様で、ファン自身が初音ミクのユーザーで音楽を作っています。音声の編集が好きだったり、物語を作ったり、音楽と初音ミクを使って自分の世界観を表現しているんです。

服部:そういったたくさんのファンの皆さんによる制作や、コンテンツ投稿サイト「piapro(ピアプロ)」への参加があるからこそ、今の初音ミクがあるのだと思います。ピアプロでは、楽曲やイラスト、歌詞、3Dモデルなどをユーザーが投稿して楽しむコミュニティですが、公式コラボの募集などもあり、キャラクターの公式デザインやアイテムに採択されることもあるんですよ。

静電場:ユーザーはますます楽しめるし、クリプトン社もアイデアが集まる素敵な仕組みですね。

地域の思いの連なりが育む、新しい土着の文化

(写真:雪ミク スカイタウンにて)

静電場:クリプトン社には、地元である北海道らしい「雪ミク」もいますね。

服部:はい、2010年のさっぽろ雪まつりのときに、雪像が作られたことが始まりでした。雪ミクは「北海道を応援するキャラクター」として、さっぽろ雪まつりと同時期に開催している「SNOW MIKU」という冬の北海道を応援するイベントを行っています。SNOW MIKUの雪ミクの衣装は、毎年ユーザーの方から応募をいただいてます。

静電場他にも、ローカルチームが手がけるプロジェクトがありますよね。

服部はい。クリエイティブな発想や技術で次の北海道をつくるためのコンベンション(集まり)「NoMaps(ノーマップス)」があります。この実行委員会の委員長をクリプトン代表の伊藤が務めています。

NoMapsは産官学が連携したプロジェクトなのですが、「産」にあたる民間企業としてはクリプトンとWESS社が参画しており、2016年にプレ開催、2017年から本開催を行い、昨年2018年10月の第2回のメイン会期には約2万2千人以上の方にご参加いただきました。

立ち上げの際にはアメリカ・オースティンで開催されている「SXSW(サウスバイサウスウェスト)」を参考にしていたのですが、元々現地を視察していたWESS社が2000年前半からそのようなイベントを開催していまして。時が流れて、地元北海道の課題ややるべきことというのが見え始めた頃、北海道経済産業局さんの会の中で生まれた、多くの人が関わる形でSXSWの北海道版をやってみようという流れから、今の体制となりました。

静電場:課題ややるべきこととは、具体的にどんなものがあったんですか?

服部課題は北海道にいると実感することの多い交通網の問題や将来的な人口減少、各地域における医療や福祉の格差など、挙げるとキリがないぐらいです。

一方で2016年のNoMapsプレ開催時はまだ人工知能やVRという言葉もそれほど一般的ではなかったのですが、そういった新産業がビジネス的な価値を大きく生みつつ、様々な課題の解決に役立ちつつあります。NoMapsではそういった未来を切り拓くアイデアや技術、そして人や出会いが行き交い、新しいビジネス価値を生む場をつくっていこうと取り組んでいます。

 

静電場:NoMapsなどを担当する服部さんのローカルチームは、いつ頃立ち上げられたのでしょうか。

服部:正式な設立は2年ほど前です。ただ「ミライスト」や「札幌シメパフェ」のプロジェクトはチーム発足前から動いていました。

静電場ミライストについて教えてください。

服部今でこそ「札幌シメパフェ」のきっかけをつくったお店として知っていただく機会も多いのですが、最初のきっかけはクリエイターの方にとっての「場」づくりでした。

そもそもクリプトンは、音をはじめイラストやコスプレなどあらゆる表現活動をするクリエイターの方々とご一緒していて、この地域にも様々なクリエイターの方がいらっしゃいます。そういった方々が集まり、一緒にクリエーションができるハブとしての「場」をつくれないかと考え、飲食の提供はもちろん、イベントを開催したりクリエイターの作品を販売できる複合型のお店としてオープンしました。

そんなミライストの開店当初からのメニューで人気なのが、道東の標茶町のブラウンスイス牛から採れる乳脂肪分の高い牛乳でつくったソフトクリームやパフェでした。一方で当時から札幌には夜遅くまでパフェとお酒を提供しているお店があり、「それなら連携してひとつの札幌の観光資源としてPRできないかな?」と考え、札幌シメパフェは誕生しました。今では23店舗が加盟してますが、最初は7店舗でスタートしました。

静電場札幌には以前から、お酒の後に「締め」としてパフェを食べるという習慣があったのですか?

服部そうなんですよ! 朝方まで、お酒とパフェが提供されてるんです(笑)。ずっと人気のお店もたくさんありまして。だからこの文化は私たちが独自に創り出したわけではなく、すでにあったものをつないでPRしたというだけです。「札幌といえばシメパフェ」と言っていただくことも増えてきて嬉しいです。

 

静電場そんな仕掛け人であるローカルチームが大切にしていることはありますか?

服部北海道の課題や魅力は色々ありますが、様々な担い手である方々の声を一生懸命聞くことでしょうか。私たちが行なっていることは一見バラバラに思われるかもしれませんが、どれもクリプトンを通じて地域のみなさんがやりたいことの実現につながってほしい、という思いから活動しているものです。

例えば、ミライストのソフトクリームの原料の産地、標茶町にも通っていただのですが、ヒアリングの期間は2年ほどかかりました。2018年に入ってようやくできることがみえてきまして、今は標茶高校を核とした地元の産業六次化に取り組んでいます。

元々標茶高校には食品加工の施設もあるのですが、町の基幹産業でもある酪農と、うちにノウハウが蓄積されてきたパフェのプロジェクトと高校が結び付きました。「SNOW MIKU 2019」の時にミライストで提供した雪ミクとのコラボパフェは、標茶高校の生徒さんが授業の中で考案したものでした。生徒さんの熱心な様子をみて町のみなさんも動き、標茶町、JA、商工会、観光協会、高校、そしてクリプトンで協定を結ぶことにまでつながりました。

このきっかけをつくることができたのも、足を運んで、生徒さんの様子を見ていたからできたことかなと感じています。ちなみに1~2月は釧路から標茶までの雪原をSLが走っていて、観光もおすすめですよ。

静電場わあ、想像するだけで気持ちがいいですね! ローカルチームでは今後、どんなプロジェクトの計画がありますか?

服部あえてひとつ挙げるとすれば、クリプトンで開発・運営を行っている北海道の各まちにフォーカスした無料情報アプリ「Domingo」での災害時や防災のアラート機能の実装があります。

2018年の胆振東部地震を私たちも経験しましたが、Domingoはユーザーの方が北海道のまちをフォローできて、そのまちの情報を手に入れることができるという機能をもっていることから、それを生かして私たちにできることがあるのではと準備を進めています。何かあったときに各まち個別の具体な情報を伝えられたらと。実装できるよう鋭意準備中です。

 

静電場:では最後に、中国の初音ミクファンにメッセージをお願いします。

服部中国でもコンサートや展示イベントを各地で開催出来るようになってきましたが、雪ミクが見れるのはここ北海道だけです!来年も今年以上にパワーアップしたイベントをお届けしていきますので、ぜひ遊びに来てください!

服部 亮太

1979年生まれ。北海道江別市出身。大学卒業後、北海道地場のスーパー(青果担当)や東京でのレコード会社(制作・宣伝担当)を経て、2009年に「札幌の今を伝える」をミッションとしたSapporo6hを立ち上げ、イベント情報をリアルタイムに紹介するTwitterアカウントやインターネット生中継で人気を博す。2014年4月、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社入社。2016年12月から、北海道にまつわる案件を担当するローカルチームのマネージャーを務める。

静電場 朔(セイデンバ・サク)

中国北京市生まれ。
アジア圏以外にもアメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカといった様々な異種文化に深く影響を受ける。
独特の感性で、幼い頃から絵画や音楽等の芸術に親しみ、中国・日本での個展を開催。自作のキャラクター、アートコラボレーションをインターナショナルに展開する一方、その風貌から若者のファッションリーダーとして、自身もディレクターを兼ねて活躍。
大学時代にバンド「少年日記」において作詞作曲やメインボーカルを担当し、音楽活動を開始。2017年に音楽ユニット「問題児」を立ち上げ、現在アーティストとして活動中。

厳 研(ゲン・ケン)

中国吉林省生まれ。
アニメ、ゲーム、映画などの経験を生かして、東京で株式会社大宇宙醸
を創業、東アジアから生まれた新しいpopカルチャーを世界に発信したい。

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